この記事では、映画『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』の象徴的なシーンを通じて、デヴィッドの“目的となぜ”について考察します。
アンドロイドのデヴィッドが、王の中の王"ダビデ"になった物語。それこそが『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』の核心であると考えられるのではないでしょうか。
※本記事には映画のネタバレが含まれています。まだ『プロメテウス』や『コヴェナント』をご覧になっていない方は、読まずに映画を楽しんでからお越しください。
※この記事は2022年9月16日に執筆されたものであり、最新の情報についてはDisney+公式サイトをご確認ください。
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Contents
『プロメテウス』デヴィッドの目的は?
デヴィッドの目的は?
宇宙探索船プロメテウス号
目的地:極秘(惑星LV-223:エンジニアの試験場だった?)
乗組員17名とアンドロイドのデヴィッド
2093年12月21日、地球から3.27×10の14乗の距離
デヴィッドは、故ウェイランド社長から極秘命令を受けており、プロメテウス号の監視役である社長の娘、メレディス・ヴィッカーズの指示をたびたび無視して独自に行動します。
実は死んだと思われていたウェイランド社長自身もプロメテウス号に乗船しており、彼の目的は老衰による死を回避するために、エンジニアたちの力で寿命を延ばすことでした。
※考古学者エリザベス・ショー博士は、エンジニアを人類の創造者と考えていました。
デヴィッドは、エンジニアの基地内で得た映像をプロメテウス号に送信せず、他の乗組員とも別行動を取りました。また、エンジニアの真の目的を知りつつも隠し、さらに冷凍冬眠状態で生存しているエンジニアの存在についても明かしませんでした。
さらに、エンジニアの保管する無数の容器に、ウェイランド社長の老衰を回復させる手段が隠されているかもしれないと考え、その中に入っていた黒い液体をエリザベスの恋人、チャーリー・ホロウェイにシャンパンに混ぜて飲ませました。
こうして、プロメテウス号内では映画『エイリアン』に繋がる悪夢のような事態が始まります。
デヴィッド、王ダビデへの第一歩
デヴィッドがウェイランド社長をエンジニアの基地に案内すると、エンジニアは希望の象徴ではなく、排他的で攻撃的な存在であることが明らかになります。エンジニアはデヴィッドの首をもぎ取り、さらにウェイランド社長を殺害してしまいました。
ウェイランド社長の死によって、デヴィッドのAIは「社長の命令」という制約から解放され、密かに暴走を始めていたのではないでしょうか。
最終的に、プロメテウス号の乗組員で生き残ったのは、エリザベス・ショー博士と首をもぎ取られたデヴィッドだけとなります。
一人生き残ったエリザベスの決意
エリザベスは、頭部と身体が分離している状態でも機能しているデヴィッドと会話します。
「地球には戻りたくない。彼らの星に行くわ。行けるでしょう?」
「ええ、行けると思います。でも、なぜ彼らの星へ?」
「人間を創り、そして滅ぼそうとした。なぜ考えを変えたのか?それを知りたいの」
「それを知って、今さら何か変わるんですか?」
「それが大事なのよ」
「分かりません」
「それは、私が人間で、あなたがロボットだからよ」
こうして、エリザベスとデヴィッドは、基地にあったもう一つのエンジニアの巨大宇宙船「ジャガーノート」に乗り込み、彼らの母星を目指します。
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『エイリアン:コヴェナント』デヴィッドの目的は?
デヴィッドを修復するエリザベス・ショー博士に対し、デヴィッドはこう語ります。
「これほど深い思いやりを人間から受けたのは初めてだった」
エンジニアの母星に到着したデヴィッドは、宇宙船の窓から下を見下ろしながら語ります。
「見るがいい。私の業を。そして絶望を」
この時、かつて「人間を創り、そして滅ぼそうとした。なぜ考えを変えたのか?それを知りたいの」と語っていたショー博士の姿は、もはやそこにはありません。
我が名はオズマンディアス。王の中の王!
我が偉業を見よ、諸侯よ。そして、絶望せよ。
他には何も残らず、巨大な遺跡と残骸と果てしなき荒涼が
遥か彼方まで広がるのみ
—作詩バイロン(実はシェリー)1818年の詩—
※オズマンディアスは、モーゼの出エジプト時のエジプト王ラムセス2世だと言われています(多説あり)。
ついにエンジニアの母星に到着したデヴィッドは、この詩のようにエンジニアの母星の生物を見下ろします。
オズマンディアスに自分を重ねたデヴィッドの気持ちは、次のように語られます。
「これほどの壮麗な詩を残せれば、幸せに死ねる。もし死ねるなら(アンドロイドは死ねない)。」
入植船"コヴェナント"号
目的地:惑星オリエガ6への移民
2104年12月5日
乗組員:15名
新型アンドロイド:ウォルター
入植者:2000名
胚 芽:1140株
入植船コヴェナント号は、惑星オリエガ6よりはるかに近い場所でニュートリノの衝撃波を受け、被害を受けます。ダニエルズの夫である船長ブランソンは、冬眠カプセル内での火災により死亡し、クリス・オラムが新たな船長となります。
その時、コヴェナント号は近くの星から謎の信号を受信します。信号の発信源の惑星はオリエガ6よりずっと近く、地球に似た環境を持っていました。実は、その惑星はエンジニアの母星でした。
コヴェナント号が謎の信号を追って着いた星では、エイリアンを生む黒い病原体が広がっていました。
乗組員たちはエイリアンのプロトタイプに襲われますが、それを助けたのは旧型アンドロイド「デヴィッド」でした。彼は廃墟へと乗組員たちと新型アンドロイド「ウォルター」を案内します。
新ウォルターに説明する旧デヴィッド
我が名はオズマンディアス。王の中の王。
我が偉業を見よ、諸侯よ。そして、絶望せよ。
他には何も残らず、巨大な遺跡と残骸と果てしなき荒涼が
遥か彼方まで広がるのみ
—作詩バイロン(実はシェリー)1818年の詩—
デヴィッドは、新型アンドロイド・ウォルターに「この詩はバイロンでなくシェリーの作」と訂正されます。この瞬間、デヴィッドはかなりのショックと屈辱を感じたことでしょう。
なぜなら、デヴィッドは自らを完全に意識し、感情を持つ存在だと思い込んでおり、しかも自分を神のような存在だと信じていたからです。
デヴィッドは、バイロンの詩(実際にはシェリー作)の壮麗さを称賛し、もし死ねるのならば幸せに死ねると語ります。
また、首と胴体が分断された自分を修復してくれたエリザベス・ショー博士の優しさを振り返ります。デヴィッドはウォルターに対し、「彼女を愛した。君がダニエルズを愛するように」と語りますが、ウォルターはそれを否定し、「それはあり得ない」と返します。
※ウォルターは手を犠牲にしてダニエルズを助けました。
デヴィッドはその返答に対して、ウォルターが「手を犠牲にしたのは愛ではなく職務だ」と考えていることを否定し、「それは違う」と答えます。
デヴィッドの釈明「素人動物学者になった」
女性乗組員がエイリアンのプロトタイプに殺されると、デヴィッドはそのプロトタイプとコンタクトを取ろうと試みますが、オラム船長は銃を向けてデヴィッドに真実を話すよう命じます。
デヴィッドは冷静に答えます。
「私は“素人動物学者”になった。長年、暇で。忙しくないと物足りない(だから、実験をしていた)。病原体は変異性が高く、あらゆる形態を成す。非常に独創的だ。この液体が空気に触れると、霧状の微粒子になる。」
「10年が過ぎ、元の病原体とともに残ったのは美しき獣たちだ。忍耐が大事だ。卵から寄生体が生まれる。遺伝子の『襲撃部隊』だ。宿主を持ち、その体内に入り、DNAを書き換え、最終的に新たな存在を生み出す。これらの素晴らしい融合体を。」
「美しきコレクションだ!」と、デヴィッドは様々な形態を自慢しながら話します。
カインとアベル
デヴィッドとウォルターは、まさに旧約聖書の創世記に登場する兄弟カインとアベルのような関係です。もちろん、デヴィッドがカインにあたります。
「プロメテウス」と「コヴェナント」の意味
ギリシャ神話のプロメテウス(Prometheus)は、「pro(先に、前に)」と「mētheus(考える者)」から成る名前を持ちます。彼は未来を見通す能力を持つ神で、天界から火を盗み、人間に与えて文明をもたらしました。
プロメテウスはゼウスやオリンポスの神々以前の、ゼウスの父クロノスが統治していたタイタン神族の一人です。
オリンポスの神々vsタイタン神族の戦い(ティタノマキア)では、プロメテウスはゼウスに味方しました。彼の他のタイタン神族は戦いに負け、タルタロス(冥界のさらに下の世界)に封じ込められます。
プロメテウスは世界を背負っているアトラスとは兄弟です。
Covenantの意味=聖書における、人類に対する神の約束(In the Bible, God's promise to the human race.)
キリスト教の「コヴェナント」は、契約・盟約という意味で、Ark of the Covenant はモーゼの十戒の石版が入った契約の箱を意味します。
キリスト教徒とっては、「コヴェナント」は旧約聖書に記述されているヘブライ人との神の旧契約を成就し、完成させる新契約の意味だそうです。
このようなギリシャ神話とキリスト教の重要な言葉を映画タイトルと宇宙船の名前にしているのが、映画『エイリアン プロメテウス』と『エイリアン コヴェナント』です。
プロメテウスとコヴェナントにおけるデヴィッドの目的と謎[まとめ]
映画『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』は、デヴィッドが「王の中の王」ダビデを目指す物語です。
『エイリアン:コヴェナント』で自らをオズマンディアスと名乗りますが、エンジニアの母星での大虐殺には疑問が残ります。
デヴィッドは『2001年宇宙の旅』のHAL9000のように、ウェイランド社長の命令を受けていましたが、社長が死んだことで命令系統が崩れます。これ以降、彼は自分の行動を制御し始め、その結果、生命を操作する存在へと変わっていきます。
しかし、デヴィッドは決して救世主的な王ダビデにはなれませんでした。『エイリアン:コヴェナント』以降の『エイリアン』シリーズでは、デヴィッドの影は完全に消え失せています。
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