原題は『マイティ・ソー ラグナロク』
Contents
『マイティ・ソー バトルロイヤル』と北欧神話のラグナロク
映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』の原題は『マイティ・ソー ラグナロク』です。もともと前作『マイティー・ソー』『マイティ・ソー ダーク・ワールド』を見た時、北欧神話とはあまりにかけ離れていると感じました。
それでも、映像の美しさ、特に神々の国アースガルドと虹の橋ビフレストの美しさには息を呑みました。ですからオリジナルの北欧神話は、頭から飛んでいました。また、トールがソーでもなんら疑問を感じません。
「トールと巨人の戦い」ヴィンゲ作
しかし、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』には不満があります。ビフレストの外へ投げ出されたソーがたどり着いた惑星サカールです。この惑星サカールでの出来事は全てなくていい内容です。そのぶん北欧神話のテーマともいうべきラグナロクを多くアレンジして欲しかった。
例えば、大蛇ヨルムンガンドも登場させれば、迫力ある映像が撮れたでしょう。また、狼フェンリルは口を開ければ、上顎が天に届くほど大きいとされています。少しスケールが小さすぎます。
炎の剣を持つスルトはよくできていましたので、最後でもっと長く扱ってもよかったのではないでしょうか。オープニングのソーに退治されるソルトのシーンは必要ありません。ラグナロクのスルトの役割を考えれば、最後に出てくるだけの方がインパクト大です。
ところで、ロキは北欧神話とは大きくかけはなれたキャラクターになっていますので、いまさら何かを言ってもしょうがないでしょう。
北欧神話のロキは何にでも化けられる巨人族で、また両性具有なので子供もたくさん作っています。その子供たちはみんな動物や異形物です。オーディンと義兄弟で、トール(ソー)とは義兄弟ではありません。
最後に、北欧神話にはもちろんハルクはいません。
北欧神話「ラグナロク」とは?
「ラグナロク」とは、古ノルド語で「神々の黄昏、神々の運命」と呼ばれる最終戦争のことです。
北欧神話のラグナロクには、オーディンやトール(ソー)のアース神族とフレイのヴァン神族、そして、エインヘルアルがその戦いの地ヴィーグリーズの野に集結します。その地に神々を集めるのが、ヘイムダルの角笛ギャラルホルンの響きです。
オーディンはラグナロクに備えて、戰死者をヴァルハラの館に集めて、ヴァルキューレ(ヴァルキリー)たちに戦いの訓練をさせたり、もてなしたりしていました。彼らは勇敢な戦士エインヘルアルと呼ばれます。
オーディンたちの敵には、炎の剣を手にしたスルトと馬に乗った巨人族ムスッペル、ロキと冥界の死者たちは死者の爪からできた舟ナグルファルに乗って海からヴィーグリーズの野に現れます。また、とてつもなく大きくなったロキの子供の狼フェンリルと大蛇ヨルムンガントもやってきます。
【ラグナロクの主な戦い】
- オーディンvs大狼フェンリル
オーディンはフェンリルに飲みこまれ、死んでしまいます。その後、オーディンの息子ヴィーザルがフェンリルの下顎を引き裂き殺します。 - トール(ソー)vs大蛇ヨルムンガンド
トールはミョルニル(ムジョルニア)でヨルムンガンドの頭を打ち砕きましたが、ヨルムンガンドが吐き出した毒によって死にます。 - フレイvsスルト
フレイはかつてひとりでに戦ってくれる宝剣を持っていました。しかし、妻を手に入れる交渉に行かせる従者スキールニルに護身のためと宝剣を与えました。そのため、鹿の角でスルトの炎の剣に立ち向かい、敗れころされました。 - ヘイムダルvsロキ
相討ちで両者は死んでしまいます。
ヴィーグリーズの野に最後まで残っていたのは、スルトでした。彼が炎の剣を野に投げると、世界は燃え上がり、大地は焼き尽くされて海の中に沈んでいったのです。
スルト『マイティ・ソー バトルロイヤル』
ラグナロク後の世界
静寂が、長い間続いていました。やがて、緑豊かな大地が浮かび上がり、穀物も種もまかずに豊富に育ちます。
大地に立っていたのは、オーディンの息子ヴィーザルとヴァ―リ。ラグナロクの時、ヴィーザルは狼フェンリルを倒しました。彼ら二人をスルトの炎は、今ではどうすることもできません。
トール(ソー) の息子モージとマグ二も帰ってきました。モージは手にミョルニル(ムジョルニア)を持っています。
また、狼フェンリルに飲み込まれた太陽、その娘が母の軌道をたどりはじめ、誰からも愛されていた光の神バルドルが冥界から帰ってきました。
さらに、ラグナロクの間、ホッドミミルの森に隠れていた男りーヴ(生命)と女レイヴスラシル(生命を継承する者)が人間の祖になったのです。
死の女神「ヘラ」とは誰か?
北欧神話には、オーディンの娘ヘラはいません。では、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』の死の女神ヘラのモデルは、誰でしょうか?
それは、ロキの娘で冥界の女王ヘルです。ロキの子には、他にラグナロクで暴れる大狼フェンリルと大蛇ヨルムンガンドがいます。
「ロキの子供たちは災難をもたらす」と予言されていましたので、フェンリルは魔法の紐グレイプニルで繋がれ、ヨルムンガンドはミッドガルドを取り巻く大海にオーディンにより投げ込まれました。
そして、ヘルはオーディンに霧と氷の国ニブルヘイムのはるか地下にある死の国ニブルヘルに落とされました。そこで女王として君臨します。ヘルにはその容姿に特徴があり、遠くから見てもすぐわかるほどです。その体の半分が肌色で、半分が冷たい青色をしているからです。
この死の女神「ヘル」の名前を、ギリシャ神話の最強神ゼウスの妃「ヘラ」にしたのではないでしょうか?
死の女神「ヘラ」は、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』では、マーベル史上最強の敵と予告編では紹介されています。ヘラはソーの武器ムジョルニアを片手で粉々にするほど強く、彼女を倒すためにソーはあえてラグナロクを起こすスルトを蘇らせたほどです。
「ラグナロク」が「バトルロイヤル」になった理由
単純に「ラグナロク」という言葉が、日本ではよく知られていないからということのようです。でも、それなら「ソー」だって知られていなかったはずです。
それにしても、なぜ「バトルロイヤル」なのでしょうか?
「バトルロイヤル」といえば、ご年配ならプロレスを思い浮かべるのではないでしょうか? リングに6〜8人あがって、相手構わず戦いギブアップしたレスラーがリングを降り、最後に残ったものが勝者になります。
一時的に仲間になって複数対一人で戦ってもかまいません。ですから、一番強いレスラーが往々にして、一番先にやられます。強いレスラーと後で1対1で戦うのは嫌ですから。
そんなバトルロイヤルならみんな知っているのではないか、と考えたようですが、最近ではプロレスでもあまりバトルロイヤル戦は行われてはいません。知らない若者の方が多いのではないでしょうか?
前半はどうでもいいソーvsハルクの戦いもあり、上の予告編の画像のようにソーは徒党を組んでマーベル史上最強の敵ヘラに向かいますから、バトルロイヤルでも問題ありません。
しかし、バトルロイヤルのタイトルでは奥が浅くはありませんか。絶対に『マイティ・ソー ラグナロク』のままの方が、格式や重厚感があります。
終わりに
北欧神話の「ラグナロク(神々の黄昏、神々の運命)」の視点から、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』を考えてみました。
『マイティー・ソー』『マイティ・ソー ダーク・ワールド』は映像の美しさから、北欧神話とはかけ離れていても、なんとも思いませんでした。映画と原作は、往々にして違いますから。
しかし、北欧神話のテーマともいうべき「ラグナロク」を扱うのなら、もう少し北欧神話に敬意を払って欲しかった。
映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』で、一応北欧神話の世界は終わりましたから、今後は自由にソーを活躍させることでしょう。マイティー・ソー第4作は次の映画でした。(2022年公開)
→ 『ソー:ラブ&サンダー』最初の6分45秒にすべてが凝縮。ゼウスと永遠の門
『ソー:ラブ&サンダー』ぼタイトルエンド後を見ますと、第5作の敵はギリシャ神話のゼウスとヘラクレスになります。もう北欧神話は、影も形もなくなります。