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エンジェルフライト

Amazon配信の『エンジェルフライト〜国際霊柩送還士』を見て、原作を読んでみました。原作といっても、いわゆる小説や漫画ではありません。佐々涼子氏のノンフィクションでした。

この原作『エンジェルフライト』は、初章が衝撃の「遺体ビジネス」から始まり、終章の切ない「忘れ去られるべき人」で終わります。その間に起こる様々な出来事が、国際霊柩送還士の仕事=ビジネスなのです。

ドラマの中で、松本穂香演じる新入社員の凛子が飛んでいる飛行機を見てこう呟きます。

「母さま、私は幼い頃、空を見上げて銀の機影を見つけると、遥か彼方の異国への旅を夢見ていました。でも今はその姿を見ると、あそこに遺体が積まれているかもしれない……そう思います」

しばし、あなたも国際霊柩送還士という仕事に想いを馳せてみませんか。

衝撃の「遺体ビジネス」Angel Freight→Angel Flight

エンジェルフレイトからエンジェルフライト

航空機で運んでくるのはご遺体ですが、法令上は貨物(Freight)扱いになります。ですから、エアハース・インターナショナルの霊柩専用車には、二人のエンジェルの絵に Angel Freight と書いてあります。

Angel Freight〜天使が運ぶように優しく運ぶ〜木村利惠氏は亡くなった人が翼に乗って旅をするのが「天使のフライト」のようだと、国際霊柩送還のことを「エンジェルフライト」と呼ぶようになりました。

※ご遺体が入っている=柩、入っていない=棺とに分けるそうです。

国際霊柩送還という仕事

  1. 海外で亡くなった日本人の遺体や遺骨を日本に搬送し、自宅や葬儀社へ届けること。また、日本で亡くなった外国人の遺体や遺骨を祖国へ送り届けること。エンバーミング(防腐処理)を行います。
  2. 日本と外国との間の諸々の手続き、海外旅行障害保険の有無に付帯する諸々の手続き。国をまたぐ場合、いろいろな問題があります。例えば、棺の中に麻薬や武器を入れて密輸することなど。

※「国際霊柩送還」という言葉は、エアハース・インターナショナル(株)の登録商標で、一般的な言葉ではありません。その意味では、まだ一般的な言葉はありません。

国際霊柩送還士の思いとは?

山科昌美会長と木村利惠社長が作りあげた仕事。その目的はドラマ『エンジェルフライト』第一話で、米倉涼子演じる那美が松本穂香演じる新入社員の凛子に語っています。凜子は那美のやりすぎる仕事の理由を聞いたのです。

「物じゃないんだよ! ご遺体は。(自分は)ただ生きるために必死で働いているだけ」
「それ以上のことをなさっているように思えます」

「"死を扱う"ってことは、"生を扱う"ってことだろ。残された人たちは、前を向いて生きていかなけきゃならない。

そのために、せめて最後のお別れをさせてあげてとことん悲しんでもらう。それが私たちの仕事。
やれるだけのことはやらないと大切な人にお別れも言えないなんて、つらすぎるじゃん。

あなたこそ、いつ退職届け持ってくるかと思ったけど、別に、ここが自分の居場所だと思えたわけでもないだろ」

「死について、知りたくなったのかもしれません。人が死ぬってどういうことなのか」
「ハァ、インテリっていうのはほんとにくだらないよね。哲学者気取り?」

エンバーミング。なぜ「生前の表情に戻す」にするのか?

エンバーミング(防腐処理)には、国際的なライセンスがありません。アメリカ(ライセンス制)のような先進国もあれば、ただ遺体を袋に入れて館に入れるだけの国もあります。国の中でも、業者によってまちまちです。

国際霊柩送還士の仕事は、遺体を海外から日本の家族に届けるだけでなく、「生前の表情に戻す」ことです。事故死は病死と違って、遺体が損傷しているケースが多々あります。

また、国を越えての送還なので時間的経過もあり、エンバーミング(防腐処理)は必須。だから国際霊柩送還士は、生前の状態で家族に会わせる使命感を持っています。

米倉涼子さんはこう語っています。
「国際霊柩送還士の仕事は、亡くなられた方のご遺体だけではなく、ご遺族も知らなかった故人の秘めた想いも搬送します」

われわれがかかえる問題の多くは、決着がついていない悲嘆、癒されていない悲嘆から生じている。自分の悲嘆をうまく経過させることができなかったとき、われわれは心と魂を癒す機会を失うのである。

『永遠の別れ―悲しみを癒す智恵の書』
エリザベス・キューブラー・ロス、デーヴィッド・ケスラー他

国際霊枢送還という一見グローバルな命題を書き記すつもりでいて、そこに見えてきてしまうのはごくパーソナルな悲しみだった。たとえ大きな事件、事故の犠牲者であっても、帰ってくる時は、たったひとりの息子だったり、娘だったりするものだ。山科の教えてくれた言葉にこんな一節がある。

親を失うと過去を失う。
配偶者を失うと現在を失う。
子を失うと未来を失う。

『エンジェルフライト』単行本139ページ

そして「忘れ去られるべき人」へ

エアハース・インターナショナルの人々は、遺体を遺族のもとへ届け、最後の別れをさせてあげます。遺族にはその別れの時が一番辛く、その辛い想い出は遺族にトラウマのようについてきます。

「せめて最後のお別れをさせてあげて、とことん悲しんでもらう。それが私たち(国際霊柩送還士)の仕事」

しかし、その仕事が終われば、国際霊柩送還士は遺族の辛い別れを想い出させないよう、自分たちのことが辛い別れを想い出すきっかけにならないよう忘れてほしいと思っています。つまり「忘れ去られるべき人」なのです。

『エンジェルフライト』登場人物

【エアハース・インターナショナル】
会 長:山科昌美
社 長:木村利惠
取締役:木村利幸(利惠の息子)
社 員:木村桃(利惠の娘)
社 員:古箭厚志(ドライバー)
新 人:川崎慎太郎

【エンジェルフライト】キャスト
米倉涼子:伊沢那美、エンジェルハース社社長
遠藤憲一:エンジェルハース社会長・柏木
松本穂香:新入社員の高木凛子
城田優:マニアックな柊

運ぶのは遺体だけじゃない。

国境を越え、
"魂"を家族のもとへ送り届ける
プロフェッショナル
2012年第10回開高健ノンフィクション賞受賞作

単行本『エンジェルフライト』の書評

  • 佐野眞一氏
    この作品のよさは、この仕事に携わる人々の姿が、実に生き生きと描かれていることである。
  • 田中優子氏
    読みながら、なぜ人は「生きているときと同じ顔」を死者に求めるのか、と考え続けていた。
  • 藤沢 周氏
    「死」や「弔い」を日常に新たに提示することで、「命」の重さと「人間の真の幸福」とは何か、を突きつける。
  • 茂木健一郎氏
    生涯に一回しか起こらない大事件と、そこに繰り返しかかわる者の職業生活。
  • 森 達也氏
    3.11という未曾有の災害を体験した翌年という時世も、この作品の追い風になった。

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終わりに

佐々涼子著『エンジェルフライト〜国際霊柩送還士』を読んで、その仕事を知り驚きました。遺体のエンバーミングに「生前の表情に戻す」ことにかける彼らの思いは、執拗な信念そのものです。想像するに、そんな仕事をする前にその遺体の匂いや損傷にたじろいでしまうと思います。

今まで、国際霊柩送還という仕事があったことなど、少しも考えたことはありません。ドラマ『エンジェルフライト〜国際霊柩送還士』をみて、死生観が変わったかどうかはわかりません。ただ、夫や妻、親や子との死に直面した時、その別れは思っている以上だと感じます。

『エンジェルフライト』全6話を見て、国際霊柩送還士の那美(米倉涼子)の「遺族への思い入れ」が少しやり過ぎなのでは? と思っていたのですが、そうではなかったのです。

原作のエアハース・インターナショナル(株)社長・木村利惠氏は、もっと遺族に寄り添っていたり泣いたりしているようです。米倉涼子さんは、那美を大げさに表現しているのはなかったのだと今は思っています。

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プライムビデオ『エンジェルフライト国際霊柩送還士』米倉涼子コメント