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長澤まさみ&松山ケンイチ映画『ロスト・ケア』

映画『ロスト・ケア』原作の大友秀樹が女になった理由

原作『ロスト・ケア』の主人公のひとり検事・大友秀樹は男性です。しかし、映画『ロスト・ケア』の検事は女性で大友秀美(長澤まさみ)になっています。

テレビや映画で、主人公の性別を変えることはたまに見かけます。
しかし、原作『ロスト・ケア』を読んでみると、その理由が想像できます。原作の検事・大友秀樹は次のような設定で、あまり個性的な魅力ある人物像ではありません。

  • ただ正義感が強い一般的な検事
  • 裕福な家庭に育った似非クリスチャン
    大友の父親は至れり尽くせりの老人ホーム「フォレスト・ガーデン」に入居し、数年後なに不自由なく膵臓癌で死去。
    そんな父親は生前『ロスト・ケア事件』として報道された42人の高度要介護者の連続殺人犯・斯波宗典について息子・秀樹にこう語っています。
    お前が捕まえた斯波ってやつ、そんなに悪くねえよな……
    検事として、秀樹にはショックだったのではないでしょうか? また秀樹には、斯波宗典が殺した家族の明日なき悲惨な境遇など、心から理解するのは難しいと思われます。そんな遺族の気持ちを理解できず、起訴状の調書に遺族の殺された無念を書いていきます。
  • 家族には妻・玲子と娘・佳菜絵がいます
    玲子は夫・大友の仕事をバックアップする意思が強い優等生タイプ。完璧な妻を演じようとして、そのため自分のことが疎かになり、鬱(うつ)になってしまいます。そして、長野の実家に娘と共に帰って静養します。
    後になって、大友は妻の状態に気づいていながら、なにもしなかったことを後悔します。自分勝手な夫ではなく、素直に自分の非を認めるところはいい育ちからでしょう。

そんな検事・大友秀樹を、魅力あるひとりの主人公とはどうしても思えませんでした。原作者・葉真中顕(はまなか・あき)も2月2日映画『ロストケア』の完成披露舞台あいさつで『検察官=男性のようなステレオタイプな認識で書いていた』と発言しています。(下の記事参照)

しかし、訪問介護センター「フォレスト八賀ケアセンター」の老人死亡率の高さに気付くところと、最後に殺人犯・斯波に面会に行き、彼の真意に気づいたのはさすがに優等生です。死刑員・斯波も自分の思いに唯一気づいてくれた大友に、安堵したようなところが書いてありました。

小説『ロスト・ケア』のテーマは介護問題で、主人公とは言えない検事・大友秀樹。映画化する上で監督・脚本の前田 哲と脚本・龍居 由佳里は大友の設定をどうするか考えたことでしょう。

キャストを長澤まさみにしたのが先かどうか分かりませんが、もっと強い個性を検事・大友に与えたかったのではないでしょうか。松山ケンイチvs長澤まさみの対決はきっと見どころになるでしょう。

葉真中顕著『ロスト・ケア』読んでみた

〈彼——殺人犯であるとは最初は明かされていません〉高度要介護者の連続殺人犯・斯波宗典は自分がしたこと=殺人は「救い」だと語ります。

検事である大友秀樹には、当然それを受け入れることができません。また、斯波宗典によって親を殺された遺族は、本心ではみな彼を恨んでいません。どうしようもなかった自分の境遇から救われたと思っているのです。しかし、大友は起訴状を書くに、知らず知らず遺族に親を殺された無念さを押し付けていきました。

起訴状を書いた大友は公判では検察席には立ちません。しかし、ずっと心にしこりが残っていました。判決後4年目に、死刑判決を受けた斯波に会いに行きます、彼のもう一つの目的を確かめるために。

似非クリスチャンと言ってもいい大友は、イエス・キリストを想い、こう思ったのでした。それは、イエスが実在の人物であったかどうかには関係なく、キリスト教の成り立ち(死からの復活)が事実であったかのように、殺人犯・斯波宗典は社会に問題を投げかけたのではないか、と。

それは、高齢化社会が抱える老後問題を世間に知らしめたこと——ますます悪くなっていく老後問題をです。

映画『ロストケア』原作者が長澤まさみの演技に感嘆「心の揺れや迷いと向き合う姿が素晴らしい」
→https://news.yahoo.co.jp/articles/a76c6ec6a2476d7dec24d363616fa879080a608b

2月2日、映画『ロストケア』(3月24日公開)の完成披露舞台あいさつ
主演の松山ケンイチ、長澤まさみ、戸田菜穂、鈴鹿央士らが登壇

(原作小説『ロスト・ケア』(光文社刊)作者の葉真中顕氏のコメントから抜粋)

「映画化の話が進むなかで、検事役を女性に変更して、長澤さんが演じると聞いたときは、『いまの時代に合っているな』と思いました。この小説を書いた10年前は性別を深く考えず、検察官=男性のようなステレオタイプな認識で書いていたような気がします」

「介護の担い手には女性が多い、家庭の中では望んだわけでもないのに女性に“押しつけられる”ということもよくあります。そういう問題を潜在的に孕(はら)んでいる『介護』の現場で起きた事件に女性の検事が対峙するという構図は、映画のアレンジとして、むしろいいのではないかと思いました。別の形で描き直せる可能性も感じられました」

「原作の大友は、42人を殺めた斯波と“対決”するとき、背景にある斯波の気持ちをまったく理解できていないと感じた読者が多かったようで、『大友はきれいごとばかり言ってムカつく』という意見もあったんです(笑)。

ところが、長澤さんが演じた大友には、原作にはなかった共感力があり、もう一段深いところで葛藤を抱えているような人物像になっていた。

映画の大友は、ただ正義を振りかざしているのではなく、凶悪犯と対峙するなかで、自身の心の揺れや迷いとも向き合っていた。もがきながらも、やはり譲れない正しさみたいなものに一生懸命すがろうとしているというか……」

(一方)大量殺人犯の斯波を演じた松山については、こう話す。

「私のなかで、斯波はイケメンではなかったので、『松山さんが演じるのか』と思っていたんです(笑)。ですが、ずいぶん減量されたようで、撮影現場を見学したときには斯波になりきっていらっしゃいました。

松山さんのおかげで、この作品のいちばん大切なテーマである『事件が起きる前に社会や私たちがやるべきことがあるのではないか』という部分がより強く伝わるのではないかと思います。

観た方にも『斯波は殺したくて42人も殺したのではない』ということを、他人ごとではなく、自分ごととして考えてもらえたら嬉しいですね」

「最初に介護問題を中心にした小説を書こうと思ったんです。書き進めるうちに、《喪失の介護、ロスト・ケア》というフレーズが浮かんできました。

「原作はミステリー小説として出版しましたが、映画版はミステリーとしての部分がばっさりカットされ、検事と犯人の価値観のぶつかり合いに重きを置いた構成になっています」

映画『ロスト・ケア』松山ケンイチ&長澤まさみ

監督・脚本 前田 哲の言葉

映画は日々変化し一瞬にして天国と地獄をも生み出す「生き物」であることを思い知らされた撮影現場でした。松山ケンイチさんと長澤まさみさんの「魂のバトル」に、ご期待ください。二人の表情と言葉に、映画のテーマ全てが込められています。

映画『ロストケア』2023年3月24日(金)全国ロードショー

映画『ロスト・ケア』キャスト

大友秀美(長澤まさみ)検事[原作では大友秀樹]
椎名幸太(鈴鹿央士)検察事務官
柊 誠一郎(岩谷健司)次席検事

斯波宗典(松山ケンイチ)介護士
斯波正作(柄本 明)宗典の父
団 元晴(井上 肇 )斯波の上司・八賀ケアセンター長。原作では団 啓司

羽村洋子(坂井真紀)[原作では羽田洋子]
梅田美絵(戸田菜穂 )

【監督・脚本】前田 哲

【脚本】龍居 由佳里
映画『ストロベリーナイト』(13/佐藤祐市監督)、『四月は君の嘘』(16/新城毅彦監督)など。

【主題歌
】森山直太朗「さもありなん」

葉真中顕 著『ロスト・ケア』単行本の表紙は日差しが差している処うに都会がみえます。

終わりに映画『ロスト・ケア』

映画『ロスト・ケア』は2023年3月24日ロードショー。原作と違って主人公を女性・大沢秀美(長澤まさみ)にしたこの映画の意図は何だったのか 考えてみました。

そこには単なる犯人探しのミステリーから殺人犯・松山ケンイチvs検事・長澤まさみの対決に変わり、『事件が起きる前に社会や私たちがやるべきことがあるのではないか』善悪では判断しきれない高齢化社会の問題を炙り出すことになったようです。

そのためには、原作の検事・大友秀樹=男性のようなステレオタイプな人物では無理があります。強い志を持った検事-長澤まさみが必要だったのではないでしょうか。

ところで、松山ケンイチといえば、『デスノート-DEATH NOTE-』の天才探偵〈L〉役で、〈夜神月(ライト)〉役の藤原竜也と一騎打ちをしたのが思い出されます。虚虚実実の駆け引きの戦いでした。

映画『ロスト・ケア』での松山ケンイチvs長澤まさみも、映画史に残る一騎打ちとなりそうです。映画『ロスト・ケア』は必見か!